2008年6月5日木曜日

庭木の土 6

 造園工事で下層部に非植栽土を入れるのは何も公共的な場合だけではなさそうだ。中電営業所とハローワーク・労基署の総合庁舎ができた一年後、街なかに住む知人のNさんが住宅を建て替えた。

デザインがよく機能的にもすぐれた木造二階建ての素敵な家である。道路に面して車二台が駐車可能のスペースをとったので、入り口がやや狭くなったが、門から玄関までの通路の両側に小さな庭をつくった。

特に北側にはブロック塀に沿って少し高く囲った花壇を設けた。その中に三分の一ほど小石の混じった非植栽土の土砂をいれたので、おや、ここでも中電やハローワークと同じようなことをしているなと思った。その上に植栽土を入れて草花のほかに高さ二メートル余の木も植えたが、その後三年ほど経つが植木は枯れないのでそれでよかったのだろう。

О建設社長Kさんの説によれば「少し大きな木を植えるときは、その木の根の部分だけは生育に必要な植栽土を深くまで入れる」のが鉄則らしいが、Nさん宅の場合は、そのようにしてあるのかもしれない。

しかし何年か経って、非植栽土を入れた所にも草花の代わりに木を植えたくなったとき困るのではなかろうか。私が施主だったら追加費用を出しても全部植栽土にしてもらう。いや、それよりも見積書の段階で、非植栽土を入れるか否かを先ず確認するであろう。何れにせよ、個人が造園する場合には、施主が工事をつぶさに見ていればいいのであるから、解決できないことではない。

中電の場合のような大きな造園工事を仕様書通りに行わせるにはどうしたらいいか。Kさんに伺ってみた。

 建設工事は設計業務、施工監理業務および工事施工の三つに分かれる。このうち設計と監理は利害が相反する部分があるので、別々の会社に委任するほうが望ましいが、わが国の建設業界では、設計業務と施工監理業務を設計事務所が兼ねることが多い。

 おそらく、中電の場合は最低限の費用で工事をさせようとする。設計事務所は施主の意に適うように設計して見積もりをつくる。しかし、今一つの仕事の施工監理面では、仕様書通りに厳格に施工させるのは造園業者泣かせのような気持ちになって、施主の眼の届かない所の手抜きを見逃してやることになる。

深さの半分に非植栽土を入れたり、近い将来、間引きしなければ枯れるのが分かっているのに密植させてしまったのもそのためである。設計事務所はそれらの不当な行為を見て見ぬ振りをしているのだ。

また、瑕疵補償(植えた木が枯れた場合などの保障期間)は一年で、一年後に枯れても植えかえる義務がないということも先刻承知の上で誤魔化し仕事を黙認しがちなのである。

 その結果、中電の工事担当者は工事を安く仕上げたと上司から褒められ、設計事務所は予定通り仕事が終わり、造園業者はおこぼれに預かることになる。万事めでたしめでたしに見えるが、しかし、長い目で見れば中電は大損をしたのだ。後日になって、ほとんどの土を入れ替えることになるからである。

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